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コンクリートvsステンレス
ワインタンク比較検証プロジェクト

■検証プロジェクトまでの助走期間
 

 私たちはコンクリートタンクの試作を始めた2019年から2021年にかけて計3回の仕込みを、農楽蔵さん、10Rワイナリーさんのご協力を得て実施して来ました。せっかくの貴重な試験醸造でしたが、テイスティングや簡単な成分分析しか実施できなかったこと、同一条件下でステンレスタンクと比較することも叶わなかったため、コンクリートタンクの不思議な効能に迫るところまでたどり着けませんでした。

 実際、2019年に農楽蔵にてコンクリートタンク(円筒型500L)で発酵させたワインは、瓶詰め前まで順調だったものの、瓶詰め後、テイスティングを行った際に酸化傾向になり、なぜそうなったのか?葡萄の影響なのか?コンクリートタンク(容量など)の影響なのか?佐々木ご夫婦でも比較対象となるものがなかったため、原因の推定ができないという事態に陥りました。

 これが教訓となり、同一ロットのブドウ、同容量の容器(コンクリートタンクとステンレス)で比較したデータ収集の必要性を痛感することになった訳です。

 比較検証できないかどうか、まずは佐々木ご夫婦にご相談しましたが、ワイナリーが小さく、タンクの設置場所を確保できないこと、また同一ロットのブドウを調達できないことから、10Rワイナリーのブルースさんに相談することに。

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農楽蔵でのしこみ作業

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10Rワイナリーでのしこみ作業

 ブルースさんからは「面白いね。ぜひやりましょう」と快諾してもらい、せっかくなら、北海道だけではなく、他の地域でも比較検証試験したらいいのでは?との提案を頂き、これまで訪問したワイナリーさんの中から、賛同していただけた98WINEs(山梨県甲州市)、Terre de ciel(長野県小諸市)を含めて3地域で「コンクリートとステンレス」の比較検証試験を実施する運びとなりました。

 プロジェクトを進めるにあたって、農楽蔵の佐々木佳津子さんにアドバイザーとなってもらい、10Rワイナリーのブルースさん、98WINEsの平山代表、Terre de cielの桒原専務のほか、一般社団法人日本ワインブドウ栽培協会(JVA)代表理事で信州大学特任教授の鹿取みゆきさんをお招きし、リモート形式でのキックオフミーテイングがスタートしました。

 比較検証の手続き事項、テスト醸造するブドウの品種、タンクの容量、醸造方法などについて、ワイナリー間で極力統一するよう協議しました。

 その結果、地域性や醸造家の考え方もあることから、ブドウの品種、醸造方法の統一まではさすがに難しく、それぞれの地域のブドウ、醸造方法で進めていただくことになりました。タンク容量については、要望の多い500Lとし、同一容量のコンクリートタンクとステンレスタンクを比較することに決まりました。

 今回は基本的に赤ワインでの仕込みとなるため、発酵タンクでの検証となりますが、98WINEsさんでは、赤ワインの後に白ワインの仕込みもしていただける予定であり、コンクリートタンクで発酵から熟成までの比較検証もできる見通しとなりました。
 

■比較検証条件
 

① 容器素材及び容量
コンクリート3Dプリンターを用いたエッグ型コンクリートタンク(500L)とステンレスタンク(500L)での比較。コンクリートはトップマンホールと2つのヘルールのみのシンプル構造。酸素透過性を測定するため上下真ん中3か所をくり抜きコンクリートを打設。足は付けずに土台での対応。

②葡萄の品種
・10Rワイナリー:ピノ・ノワール
・98WINES:ベリーA(ベリーAの後に甲州も行う予定)
・Terre de ciel:ピノ・ノワール

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コンクリートタンク

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ステンレスタンク

③醸造方法
・10Rワイナリー:

 室内温度15℃の設定の中で、自然酵母にて約1か月程度発酵予定。(しこみ時期:2022年10月中旬~下旬頃)

 

・98WINES:

 マセラシオン・カルボニックの特殊な醸造方法とし、自然酵母にて二酸化炭素で満たしたタンクに葡萄をなるべく潰さないよう投入し、顆粒内の酸素を使わない代謝を伴う醸造を14~20日間行ったあと、液抜きをして、固形分を圧搾し、液体のみで2~3週間程度、発酵を継続。
 天気の良い日は屋外にタンクを置き、夜間は設定温度15℃の屋内に移動させてタンクを冷却。
 発酵期間中はこれを繰り返す。(しこみ時期:2022年9月中旬頃)

 

・Terre de ciel :

 室内温度15℃に設定の中で、自然酵母にて約2~3週間程度発酵予定。(しこみ時期:2022年10月上旬頃)
 

 発酵期間終了後、通常は木樽での熟成となるが、木樽で熟成してしまうと木樽から溶出する成分によって変化を起こし、比較ができない恐れがあるため、50L分をステンレス容器で熟成保管し、試飲・分析検査用とする。

 

 今回の検証プロジェクトは、コンクリートタンクの有用性を把握するために、同一条件においてコンクリートタンクとステンレスタンクで醸造したワインの成分分析(有機酸、ミネラル分、PHの変化、溶存酸素量など)を細かく分析し比較することで、コンクリートタンクがどのような影響、変化を起こすのか、把握することができるものと考えている。

 

 最終的には、2024年1月頃に鹿取みゆきさんを主導に専門家による官能評価QDA法(定量的記述分析法:Quantiative Descriptive Analysis)を実施、味の評価、評価法を確立し、コンクリートと味の相関性を見つけ出したい。

 

 そのデータをもとに、今後、仮説、検証を繰り返し、醸造家に寄り添いながら、科学的根拠データに基づいたワインの個性が表現できるコンクリートタンク“”よっつめのテロワール“に繋がるものと考えている。
 

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